現代霊性論(と獣の奏者)

考えていることのヒントが得られた本はいい本だ!

まずは前回、獣の奏者の感想を(http://d.hatena.ne.jp/akizu/20100411/p2)書いたけど筋が通らなくて消去した文章を交えて。

エリンが正規の教育を受けていたら、これまで数百年続いていた飼育法から逸脱することはなかったんじゃなかろうか。

する、しない、の選択肢と結果がある程度見えて、引き返すきっかけも多いというか。

また、真王も王獣の怖さをきちんと身をもって知っていたら、ブレーキかかるのでは。

追い詰められていて関係なかったとか、いろいろ論点がぐちゃぐちゃになって、消去したのだが、ここに現代霊性論のこの文章を持ってくると筋が通るかな。ちょっと苦しいか。

密教と言うのは,都合のよいところだけ持ってきたら非常に危ないところがあります。

それこそ殺人も正当化されるような教義だって組み立てられます。

ところが、密教をきちっと順序どおりたどっていくと、宗教が持つ危ないトラップに対してリミッターが利くというか、ストッパーがかかるように出来上がっているんですね。

密教神秘主義傾向を持ちながら、「真俗離れず」として,日常生活や社会活動を重視するんです。(中略)

ただ、それは正しい順番でたどっていかないと、リミッターが利かないんです。

自分の都合のよいところだけあちこち持ってきて寄せ集めすると、宗教の毒を避けられない気がします。

この文章を読むと、私が疑問に思ったエリンのような子を止める教育のひとつの形ではないかと。

私は話を伝えるだけの限界を感じて、伝えることに何をプラスすると、意図がちゃんと伝わるのか。

これでもエリンの暴走は止められない気もしますが。

とゆ〜か、一子相伝が崩れる瞬間を書いた本は多いが、ストッパーの存在を明確に書いた本を読んだことがない。読んでみたいな。

ところで、ソードワールドの魔術師ギルドの話を書きましたが、当然欧米を意識したのであるが、(七平さんの聖書の話とかぐらいしか)例が思い浮かばなかったので。

上橋はエリンが王獣の悲劇は伝えたと書いたが、王獣の飼育方法を伝えたとは書かなかった。

その後、教育が行き渡ったと書かれていたが、王獣の飼育方法は、万人に公開したらまずいものだとサルでも分かる。

欧米のことが頭にあれば、知りえたこと全てを誰にどうやって伝えるかはもうちょい詳しく書いたと思うが、あいまいに流された。

悲劇が起こることではなくて、悲劇の連鎖を止めることを主題にするのなら、ここは踏ん張りどころだったのに、教える正しい順番などの肝心なストッパーの書き込みがない。

ま、十二国記の秦が寡頭制で600年の平和を築いた設定なのに対し、この本では真王と大公とその側近で政治をすることに書かれた感触はあまりよくなかったしな。

現代のモラルから逸脱しない本だった。

現代霊性論 内田樹 釈撤宗 講談社 2010