十六歳の肖像 グイン・サーガ外伝⑦

地位も富も栄誉も現世限りのもの、愛も幸福も同じく―それらは多分、あるものはすでに私はもっているし、あるものは一生手に入るまい。またあるものはそのうち訪れてくるだろう。私はすでにもっているものをこれ以上望むつもりも、手に入らぬものを求めてあがくつもりも、いずれ自分のものになるであろうものを焦って早く手に入れようともがくつもりもない。

物語っていい!と思う作品。すっかり感情移入して、登場人物がどうなるのか、気になって一気読み。1時間で読み終わりました。

グイン・サーガは1巻を読んでいたのですが、そっちは[★★★]の出来でした。物語として成立していましたが、これからどうなるのか目が離せない吸引力はなかった。

読むことで人生の新しい見方が手に入ったともいえない。心に残る表現もない。

次を読むことなくほったらかしにしていました。

しかし、この本の主人公たちにはどっちにこけるか分からない2つの選択肢があり、どっちを選ぶかハラハラして読み進めました。

読み終えるとパターン通り着地したように思える納得感がありますが、その選択の結果が未来のある時点において肯定されているのかどうかの微妙さが、続きを読みたいと思える原動力を生んでいます。

冒頭の引用文もいいです。私のモットー「足るを知る」と似ていて違います。

「足るを知る」は、自分の手に入らないものを望む未練を戒めているのに対し、引用文のほうは未練がましさが存在しない。

というか、手に入らないものに対する諦念と、望むものはいずれ手に入るという強烈な自負心の釣り合い具合が見事で、すがすがしさを感じます。

読んでて楽しかったです。

十六歳の肖像 グイン・サーガ外伝⑦ 栗本薫 ハヤカワ文庫 昭和61年