魔性の殺人 

だが、寝不足からきた疲れに、昼食のときに飲んだ二杯のウィスキーとブランデーの酔いが手伝って、とろとろとし、何年も前に尋問した殺人の犠牲者の妻の夢を見た。”自業自得だったのよ”と彼女は言った。そしてどのように訊いてみても、彼女はただ”自業自得だったのよ、自業自得だったのよ”とくり返すばかりだった。

私は推理小説は後ろから読む派だ。そして、始めと終わりだけ読んで、多くの本は中を読まない。しかし、この本は、はっと気が付くと、全編通して読めていた。

この犯人の心の変遷にひきこまれた。それだけではなく、始めから犯人がわかっているのに、だんだんと犯人に近づくさまに緊張感がある。おまけに、ところどころになんとなくしみじみする含蓄のある文章がでてくる。

このような小説を何というのだろうと考えたら、単に「名作」という言葉があったじゃんと思った次第です。

犯人が後半失速するし、最近の犯罪に適応できる心理ではない気がする。しかし、このような熱っぽい感覚で人殺しをする人がいても不思議ではないように感じさせられ興味深かった。

第一の大罪 魔性の殺人 ローレンス・サンダ―ズ/中上守訳 ハヤカワ文庫 昭和57年