水蛇 カナリア・ファイル4

「でも、いい人だからって、相手を好きになるわけじゃないわ」

遠慮がちに、由布子が言った。

「あたしも、島村なんかを好きになって、瑞穂は馬鹿だと思っていた。もっといい相手がいるのに、って。

だけど、それはただの打算だわ」

登場人物が実は悪い人だったという筋書きはありふれたものだ。

だけど、いい人であってくれますようにと読者に思わせ、悪いのは何か理由がある、とか、悪いのはミスディレクションで実はいい人だよねとか思わせて、ひっぱり、正真正銘人間の屑、もとい弱い人間であったと知らされる残念度はなんだろう。

別にすごい小説の技法を持っていると思わせない、不自然さがない凄さがあります。

しかも、その登場人物の赤の他人度もまた保証されていて、読後がちゃんと娯楽小説である。

水蛇 カナリア・ファイル4 毛利志生子 集英社スーパーファンタジー文庫 1998