カナリア・ファイル 金蚕蠱

うう、と再び士郎は唸った。これまでの行動からして、真実夜こそが主的な立場にあると思われる。

しかし、士郎個人の考えでは、あるいは花映のほうが高位にあるのかもしれない。

仕えるべき相手と逆らうことのできない相手、その双方に違うことを要求され、士郎は進むことも下がることも許されない心理状態に大変なストレスを感じているようだった。

この作者、憑き物系物語作家じゃないかと思わせられるが、これを計算で作っていたら、本物です。

というか現在も作家であるから作家としてしっかり魅力があるということでしょう。

物語の緩急の付け具合が自然すぎるくらい自然で、息つく暇がないのに、そのくせちゃんと休憩場所がある。

なんだか妙なのは、一度舞台が二手に分かれて、普通は緊張感が崩壊する所だ。

しかし、確かに一方は行き詰まるのに、片方の破滅へのカウントダウンが場を引き締める。

作品は一定の緊張感が保たれる中、いつのまにか気を抜く所が準備されている。

デビュー作のようだが、シリーズ全部チェックして、この力が本物かチェックする価値はある。

主人公は作中で呪術師として中くらいの実力と言われているが、その不利をどうやってひっくり返していくのかも、期待させられます。

カナリア・ファイル 金蚕蠱  毛利志生子 スーパーファンタジー文庫 1997