母子像(久生十蘭)

世界短編コンクールで第一席を獲得した作品。

この作品に限らず久生の作品は、余分な内容がそぎ落とされていて、読み飛ばしたら場面が分からなくなる。

また、過去の回想の挿入の仕方も、現在の指摘とのズレ、本当は…みたいな感じで、自然に行われる。

しかも動機の情報が小出しにされて、何度も出る過去描写の往復に必然性がある。

なんか構造に切れ目がなく、ずるずると有機的につながっている。

そのくせ、描写が淡々と進み、作者の感情が見えにくく、雰囲気が無機的。

橋本治の小説みたいだ。橋本は久生に多大な影響を受けたそうですが、作者と作中人物との間に距離がある。

久生十蘭短編選 久生十蘭 岩波文庫 2009