とっぴんぱらりのぷぅ 田中芳樹のブックガイド

田中芳樹の本に対する愛情があふれていて、ほのぼのした気分になった。

田中芳樹は中学校の頃「銀英伝」「創竜伝」にはまってから後、BOOKOFFで100円で売っているのを見つけたら買う程度の作家になっていた。

英伝を何十回となく繰り返し読んだ時期もあるが、その他の作品はいつも75点の面白さでそれ以上はない。

しかしこの本を読んで、この本からは、私が本に求める第一、価値観のひっくり返しがなくても読む価値のある熱さを書ける作家かもしれないオーラが出ていてた。

描写方法の工夫、読みやすさの配慮の視点が深く、新刊を自費購入する価値があるかもしれない。

岳飛伝を試しに読んで追っかけ作家にするかどうか決めようっと。

この本では久美沙織藤田和日郎と対談をしているのも嬉しい。

藤田 ホラー映画が好きでよく見るんですけど。

たとえば異常な事態になったとき、そこに電話があるのにもかかわらず、警察にかけようともしない、つまりその人が「普通の行動」を全然していないと、恐怖ってどんどん下がってきちゃいますよね。

そういう人が襲われてたら「ああこれは物語の都合なのかな」って思っちゃう。

懸命にリアルな行動をしようとする人を見たら「あぁ自分でもそうするな」って思うし、だからこそ恐怖により近づくと思うんです。

ホラーでもファンタジーでも、物語に引きずり込む基本は、やっぱり人間の日常をきちんと書くことだと思うんですけど。

確かに物語に没入するには「人間が書けている」かどうかは重要だ。

人間のパターンを書き、飽きられないようにパターンをいかにはずすかは、パターンを押さえた上でのアレンジだ。

作家は一般常識を押さえる観察眼が求められる職業なんですね。

それから、久美沙織氷室冴子が亡くなったことを言っていて、「海がきこえる」の続刊は望めないのかとがっくりきました。早すぎる死でした。合掌。

とっぴんぱらりのぷぅ 田中芳樹 光文社 2009