海がきこえる

私は自分が好きだが、やっぱり嫌いな部分もある。

過去の自分とか馬鹿さが恥ずかしくて、思い出したくない。というわけで過去を美化するノスタルジーは基本苦手である。

宮台真司の解説を読んでこの話のあらすじは知っており、ちょっと身構えて読んだ。

だけど、宮台が褒めるだけあって、どいつが良い、悪いと決め付けて読み進めるのが難しい作りこみになっていて、一言ではいえない読後感が残った。

里伽子は本当はいい人、僕だけが知っているんだけど、みたいな展開になるようでなったようで、里伽子がいい人なのかはよく分からない。

主人公は里伽子は誠実だったというが、私は里伽子のしてきたことを挙げると、ほんとにそうだったのか分からない。信頼できない語り手風味。

最後、里伽子が高知に来て良かった、というのだが、そのロジックもよく分からない。

私は高知へ来たくなかった里伽子の思いは分かるが、翻心した理由が読み取れない。

なんだか主人公が一人で分かっているようであるが、でもそれでいいんだ、分からなくても世界は共有されたような、しんみりした気分になった。

ヴィンランド・サガのほかの人の感想を読むと、私には読み取れない(http://d.hatena.ne.jp/akizu/20081225/t)豊穣な世界があって、自分に分からないのが少し悔しくて、ちょっと焦る。

けど、この本は、今は分からなくても、いつか来る、書かれていることが分かるようになる日を楽しみに待てる。

主人公がそんなにぶっ飛んですごいわけでなく、身近でそのうち手に届きそうな感じで等身大で魅力的だからだ。

分かればたいしたことなくてがっかりするかもしれないけど、5年後を楽しみにして、また読み返します。

海がきこえる 氷室冴子 徳間書店 1993