奇跡の脳

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

脳卒中が起こったとき、心の中はどう変化するのか。

興味あるところではある。

著者の報告は貴重であるが、同時に本の中で繰り返されているように、人によって機能が停止する脳の部分は違うのだし、一体験談ではある。

その体験談で参考になる部分は、外に向けて表現できない状態であっても、心の内側は存在する。

あんまり邪険にするものじゃない。

とゆーか、著者の例でいうと、理屈でわからなくなった分、人の行動の好悪に敏感になっていて、切ない。

痴呆になった人の対応として、理屈で言い負かそうというのではなく、心を合わせて、同じことを繰り返し言うと、落ち着きが見られるようになるとゆーか。


著者は左脳にダメージを受け、理論的な左脳中心だった思考回路が、今しか感じられない右脳回路になってしまう。

そこで感じられた宇宙との幸せな一体感が人生を変える。

批判批判な左脳の気をそらせることにして、本の後半では思いやりを持つ、云々が強調されている。

私は、東大に入ることもできなかったし、ハーバード大の研究員だった著者とは違う。

人生において、これからも名声を得ることはできないだろう。

IQ的な意味ではなく、挫折を知るのは早目だし、仕事の出来、不出来でいうと、飛びぬけたものがない。

勝つことが当たり前の人生ではない。

「神様はいじわる」(さかもと未明)で難病に侵され、漫画を描けなくなった漫画家が病気に侵されて初めて至る境地があった。

成功者が病気にならないと分からない境地に、挫折を知る凡人は早めにたどりついちゃうのである。

お金があれば、絆云々言わなくてもサービスが受けられる、みたいな強権は発動できないし、立ち位置が異なる。

生活苦の中での思いやりは、また、成功者の言う思いやりとは違うように思う。

この本で書かれた思いやりの大切さに気付くのは触りでもあると思うし、私には滑っているようにも感じられる。

何かを与えることで、何を失い何を得るのか、あまり突っ込んで書かれていないようだったし、失う重さがないのは薄っぺらだ。