翻訳家という楽天家たち
原稿は当初は手書きだったが、途中からワープロに変わって、ぼくはときどき話の筋を忘れた。あれ、この女、だれだっけ、とか、この男、死んだはずなのに生きているぜ、とか、まあ、半分冗談だけど、あながち嘘でもない。
この本は「本の雑誌」に連載されたエッセイをまとめたもの。
私より深い世界を知っている人にその一部を開陳してもらいたかったのだが、そっちは当てが外れた。
私には見えない、あるかもしれない別の世界の存在が感じられなかった。
著者にはほら吹きの才能がないのかもしれない。
自分のこだわりを針小棒大に膨らませ、それをさも世間の常識のように言いくるめる能力。
それがなくても立派な翻訳者ですが。
読み返すとそれなりの豆知識が手に入っていたことが分かるのだが、記憶に残る面白いネタが少なかった。