パン食が浸透したのは日本政府が米食低脳説を唱えたから、はデマ

雑誌「農業および園芸」2013年12月号掲載の「生活改良普及員の昭和20〜30年代の栄養指導の意義と功績」(荻原由紀)は、この雑誌に投稿するのは敷居が高いと言われることが実感できる力作であった。

著者が見聞きした生活改良普及員批判の言説を整理、要約すると、概ね次のような要素で構成されていた。

(1)日米の政府も勧める「日本型食生活」は第二次世界大戦前(もしくは昭和30年代まで.以下特に記載のない場合、年号は昭和で記す)の食事(これらの説では伝統食、伝統的和食などと呼んでいる.)のことであり、具体的には大量の米飯とみそ汁と漬物を食べる粗食、あるいはこれに少量の野菜・魚のおかずを加えた一汁二菜などである、との説

(2)生活習慣病の増加や食糧自給低下の原因は、パンが国民に浸透したからである、との説.自給率低下については「パンを主食とするとおかずに肉類や油脂を食べるため.」と説明される.

(3)パンが浸透したのは、日本を小麦市場としたい米国の民間団体「オレゴン小麦栽培者連盟」の思惑に便乗した日本政府が、栄養学者の協力の下、学校給食や「キッチンカー事業」(後述)等の栄養指導を通じて「米食低脳説(米飯は頭脳を悪くするとの説)」を広め、頭脳のために米を止めて代わりにパンを食べよと指導したためである、との説.

(4)結果として、「生活習慣病の増加や自給率低下を招いたのは生活改良普及員と栄養士・保健婦である」というのが批判の典型的パターンである.

これら(1)〜(3)の言説は「小麦戦略説」の通称で流布しているが、学術的に使われている高嶋が54年に提唱した本来の小麦戦略説とは似て非なるものである.高嶋の唱えた小麦戦略説は次の特徴を持つ.

(1)と(2)について:伝統的食事や粗食が身体に良いとの発想は全く含まれない.肉類や油脂が身体に悪いとの発想も含まれない。

(2)について:自給率低下の主因は、パンのみにならず麺など多種多様な小麦製品・小麦料理を米国の民間団体が喧伝したためであるとする.

(3)米国の民間団体の資金提供があったのは事実だが、米食低脳食への関与をキッチンカー事業の責任者が否定していることを紹介した.また、GHQの関与は示さなかった.

小麦の1人当たり供給純食量は昭和21年の量を1とすると、25年までの4年間で1.8倍に急上昇後、横ばいになり、38年から4年間再上昇し、その後は現在までほぼ頭打ちである(図1).

つまり、38年からの小麦消費量急増はパンのみならず麺類などの消費増加と物流改善の影響と考えられるのである。

さらに56年以降食パン生産はむしろ漸減していた(図2).

昭和31年、林慶応大学教授が米食低脳説を唱えるが、このときは林氏の主張の中に、パン食を勧める記述は含まれない。

昭和30年以降から「パンを食べると頭がよくなる」との説を杉靖三郎東京教育大学教授が唱えていた(が一般には流布していなかった)

パンで頭がよくなる説と米食低脳説の2つの説が林氏の著作の中で融合したのが33年。

全然お上とは関係ないようです。

ガン・脳血管障害・心臓病等の生活習慣病の死亡者数が増えた最大の理由は、疫学的に乳幼児や若者の死亡率が激変した結果、長寿化したためであることが明らかとなっている.

我が国のガンの疫学研究の第一人者である、国立がんセンター予防研究部長・津金昌一郎氏の著書や、我が国の栄養学の第一人者であるお茶の水女子大教授山本茂氏他によると、公衆衛生学では昭和60年の年齢構成を基準にした「年齢調整死亡率」を用いるのが適正とされており、これで比較すると、がんは男性はここ10年来、女性は35年以降一貫して減少し続けており、心疾患や脳血管疾患の死亡率は男女とも減少している.

こうしたことから両氏は著書の中で、戦後の栄養改善は国民の健康に総論としてむしろプラスの方向に働いてきたことを記している.

いや、これ学術論文ですか。むっちゃ興味深い話がぽろぽろあって、何だか素人くさいぐらいである。

私の興味あるところばかり抜き出したので、論文としての体裁は整っていないように思われるかもしれないけど、栄養バランスをとることが大事ですよ〜と副食の大切さを説いたのが、新聞でも米麦の問題に矮小されたりしたみたいです。

「栄養と料理」という30年の本から引用があったり、超力作であった。

↓ちょっとオマケ

しかし、実際には沖縄県男性の平均寿命は延びており、長野をはじめとする他県の寿命が大幅に伸びて相対的に沖縄のランキング順位が下がったことが、読者に「寿命が縮んだ」と誤解されたものである。

「地元に昔から存在しない食品を食べると病気になる(だからパン食などは身体に悪い.)」という理論を持つ身土不二理論は明治42年の提唱者の病死、会員の重篤健康被害が頻発したため一端下火になった。